東京, 2023年6月5日 - (JCN Newswire) - グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本:東京都千代田区、代表:野田努)は、「国内製薬企業の企業価値向上に向けた打ち手の方向性」と題するレポートを発表しました。本レポートでは、「新薬創出難易度の上昇」、「後発医薬品の普及拡大」、「薬価の低減」という三重苦の厳しい経営環境下にある国内製薬企業に向けた提言という位置づけで、グローバル製薬企業と国内製薬企業の成長性、収益性、資産効率の分析を通じて、投資家・株主の視点から国内製薬企業の企業価値向上の打ち手の方向性について説明しています。
グローバルトップとの比較から、国内製薬企業の成長と企業価値向上への道筋 ―成長投資に必要なキャッシュを創出するために着目すべきは、労働生産性と研究開発の効率化
国内製薬企業における成長施策の柱として、アリックスパートナーズでは、「短期的施策:足元の収益性改善による成長の原資創出」、「中期的施策:事業ドメインの選択と集中」、「長期的施策:イノベーションへの投資」を位置づけています。
国内製薬企業の短期的な事業展望については、前述の三重苦の経営環境の下、今後5年の売上成長率は過去10年に比べて鈍化すると見込まれています。将来の成長に向けて必要性が高まるM&Aや事業開発によるインオーガニックな分野への投資額は年々増加している一方、買収に必要な資金負担は年々大きくなっています。実際、取得価格マルチプルの推移はこの20年間程度で1.8倍ほど高くなっています。このような環境下、国内製薬企業にとってキャッシュ創出力の重要性が増しています。
本レポートでは、グローバル売上トップ10製薬企業(以下、グローバルトップ)(*1)との比較を踏まえて、国内製薬企業(*2)の足元の収益性改善を実現するための優先順位の高い取り組みとして、改善余地が見込める2つの領域に着目しています。両グループの収益構造を比較すると、売上原価率に大きな違いは見られませんが、販売管理費率をグローバルトップ企業と比較すると著しく高いことが見て取れます(図-1)。販管費を占める主要費用項目である人件費と研究開発費を詳しく分析すると、大幅な改善余地があることが浮き彫りになりました。
図-1: 国内製薬企業とグローバルトップの収益構造比較(%、FY2002-FY2021平均)
1) 労働生産性 従業員数当たり売上金額の比較では、国内製薬企業の多くがグローバルトップの水準に劣後しており、企業によっては50%以上も労働生産性が劣っています(図-2)。
図-2: 国内製薬企業とグローバルトップの従業員一人当たり生産性比較
2) 研究開発費 研究開発費比率と売上成長率を散布図にして分析すると、国内製薬企業は投下する研究開発費に対して十分な売上成長を享受できていないように見えます(図-3)。製薬業界における研究開発は一般的に20年前後を要すると言われ、必ずしもグラフ内の研究開発費と直接的な因果関係があるわけでない点、また売上成長率は買収による売上成長も含む点を留意し、あくまで傾向として理解すべきでありますが、開発の効率性という観点で、研究開発の進め方やプロセス、リソース配分に効率化余地があります。
図-3: 研究開発費の投資対効果分析
悪化する国内製薬企業の業績 -営業利益率5%を切る製薬企業は3割超え、売上成長率もグローバルトップと比べて下回る
国内製薬企業の業績は過去10年間を通じて悪化傾向にあります。2000年度と2021年度で国内市場に上場する製薬企業の営業利益率の平均値を比較すると、それぞれ13.2%と12.6%と一見大差ない結果である一方、営業利益率が5%を切る企業数の割合は大幅に増加し、2000年は14.8%(4社)であったのに対し、2021年は33.3%(11社)にまで達しています。(*3)
また、国内製薬企業の業績は、グローバルトップとの比較においても大きく劣後しています。調査対象の両者の売上成長率と営業利益率の平均値を比較しても、グローバルトップはここ10年で平均7%程度の売上成長をしているのに対して、国内製薬企業の大半はその成長率を下回る低成長に甘んじています(図-4)。これら売上低成長企業の大半は、営業利益率でもグローバルトップに劣っています。積極的な海外M&Aや外部提携によりグローバルトップを上回る成長を達成している国内製薬企業も数社存在しますが、営業利益率はグローバルトップには及ばない水準である企業が多く存在します。
図-4: 国内製薬企業とグローバルトップの営業利益率と売上成長率の比較
投資家・株主視点での国内製薬企業への期待とギャップ -多くの国内製薬企業のTSRはグローバルトップの平均15%を下回り、またPBRは半数近くが1%を切る
低迷する国内製薬企業の業績に対して、投資家・株主視点からの評価は総じて芳しくありません。株式市場における製薬企業に対する評価を考える上でTSR(*4)に着目し、直近5年間のTSRの実績を見ると、グローバルトップの平均がTSR15%を上回っている一方で、ごく一部の好業績企業を除くほぼ全ての国内上場製薬企業はこの水準を下回っています(図-5)。
図-5: 国内製薬企業とグローバルトップの株価推移
また、今年3月末には東京証券取引所が低PBR企業に対して改善要請を出しているPBRで評価してみると、上場製薬企業のうち、PBRが1倍を切る企業数(株式時価総額が純資産額を下回る企業)の比率は2000年時点では10%に留まっていましたが、2023年には45%に達しています。
アリックスパートナーズのパートナー&マネージングディレクター、東京オフィスでヘルスケア・ライフサイエンスセクターのリーダーを務める服部浄児は次のように述べています。
「国内上場製薬企業の約半数がPBR1倍を下回っており、中長期的には更なる株価下落によって望まぬ形で経営のコントロールを失うリスクすらある状況です。コロナ禍による経営環境の変化や生成AIなどの破壊的イノベーションに対応するために、経営者はこれまで以上に難しい経営課題に取り組み、将来を見越した意思決定を迫られています。株主価値・企業価値を向上させるために、そして製薬企業としてのパーパスを実現するためにも、足元の収益性改善をはじめとする自社の抜本的な構造改革に早急に取り組むべきです。」
本レポート全編は、こちらからご覧いただけます。
(*1)グローバル製薬企業の調査対象は、国内製薬企業を除くFY21のグローバル売上上位10社。 (*2)国内製薬企業の調査対象は、一般医薬品・後発医薬品を主事業としている企業を除く、国内上場製薬企業でFY21売上上位15社。 (*3)国内上場企業の内、一般医薬品・後発医薬品を主事業としている企業を除く国内企業を分母として分析。 (*4)TSRとはTotal Shareholder Returnの略であり、投資額に対するキャピタルゲインとインカムゲインの合計額の比率である。つまり「現在の株価と配当利回りが、投資時の株価に対してどのように推移しているか」という指数であり、投資家目線でどの程度の投資妙味があるかを判断する投資指標として、機関投資家を中心に広く採用されている。
アリックスパートナーズについて
1981年設立。ニューヨークに本社を構える結果重視型のグローバルコンサルティング会社。企業再生案件や緊急性が高く複雑な課題の解決支援を強みとしている。民間企業に加え、法律事務所、投資銀行、プライベートエクイティなど多岐にわたるクライアントを持つ。世界で約30都市に事務所を展開。日本オフィスの設立は2005年。日本語ウェブサイトは https://www.alixpartners.com/jp/
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