東京, 2023年12月19日 - (JCN Newswire) - グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本:東京都千代田区、共同代表:野田努、植地卓郎、以下、当社)は、「電動化による自動車サプライチェーンへの影響とM&A」についてのレポートを発表いたしました。
現在、自動車業界では、100年以上に渡り築き上げられた内燃機関車(ICE)のサプライチェーンが崩壊し、バッテリー電気自動車(BEV)が業界をリードする時代へと転換しています。転換の波は、トランスミッション、エンジン・システム、ドライブトレイン、燃料システムに渡るOEM向けICE部品に及び、ICE新規販売の着実な減少につながっています。これは年間販売台数および見通しからも明らかです。半導体市場全体が回復傾向にあるもかかわらず、2023年のICE販売台数は前年比わずか1%増に留まりました。当社では、ICE市場は継続して縮小し、早ければ2027年には全体の70%の水準まで減少すると予想しています。
世界最大のサプライヤーの多くは、ICEに特化した組織として生き残る道を歩むのか、既存のICE関連部門を新たにBEVサプライヤーに移行させるか、あるいはICE事業から完全に撤退するかをすでに表明しています。現在のBEVへの転換のロードマップは、比較的明確であり、まだ戦略を確定していないサプライヤーやファンドにとっては、今が動き出すタイミングといえます。ターミナルバリュー(*1)の算出は明確であるため、撤退を望むサプライヤーは、価値の乏しい資産を保有し続けるリスクから逃れることを望んでいるのです。
当社では、ICEからEVへの転換が、業界再編をリードする企業の出現やプライベートエクイティ(PE)の関心を誘い、必然的にサプライヤー業界のM&A活性化につながるとみています。2022年の自動車サプライヤー関連M&Aを振り返ってみると、ICE関連案件は67%増と過去5年間で最高水準に達しています。同年は自動車業界が他業界よりも好調であり、金額ベースでは前年比約4.5%増加しました。他業界では16%減でした。多角化が進んだサプライヤーはEBITDA倍率10倍(*2)で評価される一方、ICE事業の評価は約6倍となっています。これらの動向は、ICE関連サプライヤーのM&Aが本格的に増加する見込みを示唆しています。また、PEが自動車業界のM&Aの主導権を握っていることは明らかで、2022年の取引金額ベースでPEは、ICE関連企業の取引の71%を占めています。
今後の業界再編におけるポイントは、どのサブセクターを統合するかの選択であり、各部品カテゴリにおける既存のグローバル・サプライヤーのポジションを注視する必要があります。また、再編によるサブセクターの進化、市場縮小に伴い、競争は複雑化していくことが想定されます。グローバル・サプライヤー800社以上を対象に部品およびシステムカテゴリを整理した当社調査では、OEMに供給するICE部品およびシステムのカテゴリ別に2,693の事業部門が存在しています。(*3)
統合のプロセスは事業を切り分けるサプライヤー、事業統合する企業の双方にとって複雑であり、カーブアウトやその後の新しい親会社への統合(ポスト・マージャー・インテグレーション)が必要になります。事業を切り分けられるサプライヤーの多くは、経営管理、システムや拠点においても完全に独立した組織となっていないこともあり、更には、顧客であるOEMとの長期契約という極めて貴重な資産を保有している可能性もあります。従って、カーブアウト(*4)の準備は、被買収企業にとって複雑で時間がかかる作業となります。独自の法的構造や技術サービスの契約を有する、または新しく設立される組織が複数の地域にまたがる場合には、より複雑になります。一方、買収企業にとっても、シナジー効果を確保し、価値の高いアフターマーケット契約などを含め、適切な資産を適切な契約で移行させるという困難に直面します。
業界再編の活発化に伴う自動車サプライチェーンにおける市場の集中は、ICEの需要減少に直面している市場の競争維持に努める競争規制当局にとっても注目すべき点となっています。競争当局が重視するのは、M&A後、顧客のOEMが十分な選択肢を得られるかどうかということであり、特に、取引前にサプライヤー数が減少している場合は注視する傾向にあります。このような状況において、当局は、M&AによってOEMの交渉力が低下し、乗り換えられる代替サプライヤーの数が減少した場合、サプライヤーが一方的に価格を引き上げることが利益につながるのではないかと懸念する可能性もあります。また、当局は、明示的な調整、すなわち、違法な情報共有やカルテルだけでなく、サプライヤー間の暗黙のやり取りも含めた競争上の調整を促進し得るM&Aを懸念する可能性もあります。欧州委員会の調査結果にもある通り、過去10年で、世界ではすでに多くの自動車部品カルテルが摘発され、罰金が科されています。
アリックスパートナーズのマネージング・ディレクターで自動車・製造業プラクティス日本チームリーダーである鈴木智之は次のように述べています。「ICEのサプライチェーンが急速に崩壊していくことで、業界サプライチェーンにおいて今後更にM&Aが活発になると想定されます。サプライヤーにとっては、BEVへの転換のロードマップの中で選択するサブセクターがどのように進化し、どこに価値があるのかをより早い段階かつ正しいタイミングで判断し、市場縮小に伴い複雑化していく競争にどれだけ戦略的に対処できるかが、生き残りに向けて重要となります。」
本レポートの全文(英語)は、こちらからご覧いただけます。
(*1) ターミナルバリューとは、企業の将来期待されるキャッシュフローを試算してその価値を計算する際に、個別にキャッシュフローの試算ができない期間(事業計画の予測期間)以降に生み出される永続価値のこと。継続価値、最終価値、残存価値とも呼ばれる。 (*2) EBITA倍率とは、M&Aにおいてある企業を買収した場合、その企業が獲得するおよそ何年間の本業利益で買収した際のコストを回収できるかを測定する指標。 (*3) 事業部門とは、ビジネスユニットとして定義されているものだけに限らず、ICE部品専用工場からICEに焦点を当てた社内運営組織や製品グループといったものを含む。 (*4) カーブアウトとは、会社分割の一種で、親会社が戦略的に小会社や自社の事業の一部を切り出し(carve out)、新会社として独立させること。
アリックスパートナーズについて
1981年設立。ニューヨークに本社を構える結果重視型のグローバルコンサルティング会社。企業再生案件や緊急性が高く複雑な課題の解決支援を強みとしている。民間企業に加え、法律事務所、投資銀行、プライベートエクイティなど多岐にわたるクライアントを持つ。世界で約30都市に事務所を展開。日本オフィスの設立は2005年。日本語ウェブサイトは https://www.alixpartners.com/jp/
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